大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(ワ)14830号 判決

原告 さくら興産株式会社

右代表者代表取締役 若林裕治

右訴訟代理人弁護士 佐々木良明

被告 樋口芳子

被告 樋口達雄

被告 東井令子

被告 伊木和子

右四名訴訟代理人弁護士 平野智嘉義

同 大森八十香

同 桃谷惠

主文

一、被告らから原告に対する東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第五一一九号建物持分移転登記請求事件の判決につき同裁判所が昭和六〇年一〇月一七日付与した執行力ある正本に基づく強制執行を許さない。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、本件につき、当裁判所が昭和六〇年一二月七日にした強制執行停止決定を認可する。

四、この判決は前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文第一、二項と同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 被告らと訴外株式会社ナン・エンタープライズ(以下「訴外会社」という。)間の東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第五一一九号建物持分移転登記請求事件(以下「前訴」という。)の判決による債務名義につき、同裁判所書記官は、昭和六〇年一〇月一七日、原告に対する強制執行のため、被告らに承継執行文を付与した。

2. よって、原告は、被告らに対し、右承継執行文の付与につき異議があるので、主文第一項記載どおりの判決を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因は認める。

三、抗弁

1. 訴外会社は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有しており、被告らは、その敷地部分を所有してこれを訴外会社に賃貸していた。

2. 被告らは、訴外会社が昭和五八年三月分以降の賃料を支払わないので、昭和六〇年四月三日、訴外会社に対し、右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、同年五月二日、建物の区分所有等に関する法律一〇条に基づき、本件建物の収去に代えて、金九一八万円で買い受ける旨の意思表示をしたうえ、被告らが原告らとなり、訴外会社を被告として、前訴において、右建物につき、右買い取りを原因とする持分移転登記(被告樋口芳子につき、一万分の一五〇四、その余の被告らにつき、各一万分の二八三二)手続を求めた。

3. 前訴は、昭和六〇年六月一八日午前一〇時の第一回口頭弁論期日において、弁論の終結がされ、同年七月一六日、前訴の原告らである被告ら勝訴の判決が言い渡され、この判決は、控訴期間の満了により確定した。

4. 原告は、昭和六〇年四月一五日、本件建物についての競売手続における買受人となり、同年六月一八日、代金を納付してその所有権を取得し、同月二〇日、右競売による売却を原因として所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を経由した。

5. 建物の区分所有等に関する法律一〇条に基づく区分所有権売渡請求の相手方は、区分所有建物の登記名義人であるから、原告は、本件登記を経由した昭和六〇年六月二〇日の時点で訴外会社から区分所有権売渡請求の相手方となる地位を承継したというべきである。また、区分所有権売渡請求権は、敷地所有権に基づく妨害排除請求権を変換させたものであるから、前訴の口頭弁論終結後に本件建物につき、本件登記を経由している以上、原告は、現に被告らの土地所有権を侵害しており、妨害排除請求の相手方となるのであり、区分所有権売渡義務者としての地位を承継しているというべきである。

したがって、原告は、本件建物につき本件登記を経由したことをもって、前訴の口頭弁論終結後の承継人であるというべきであるから、本件承継執行文の付与は適法である。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1は明らかに争わない。

2. 同2は明らかに争わない。

3. 同3は認める。

4. 同4は認める。

5. 同5は争う。

理由

一、請求原因事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、抗弁について判断する。

抗弁1及び2の事実は原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、抗弁3及び4の事実は当事者間に争いがない。

ところで、前訴の確定判決に基づく債務名義に表示された当事者の承継人として、承継執行文付与の債務者となるのは、民事執行法二三条一項三号によれば、前訴の口頭弁論終結後の承継人であるから、本件承継執行文の付与が適法であるためには、原告が前訴の口頭弁論終結後(同日であるときは時間の先後によると解される。)に本件建物の所有権を取得したことを要すると解すべきである。

そして、執行文付与に対する異議の訴えにおいて、承継執行文付与の前提となる右承継の存することについては、これを主張する右執行文の付与を受ける債権者に立証責任があると解するのが相当である。したがって、原告が前訴の口頭弁論終結後(昭和六〇年六月一八日午前一〇時すぎ)に本件建物の代金を納付して訴外会社からこれを承継取得したものであり、右承継人に該当することは、被告らにおいてこれを主張、立証しなければならないというべきである。

しかるに、前記認定事実によれば、前訴の口頭弁論の終結がされたのは、昭和六〇年六月一八日午前一〇時指定の弁論期日においてであることが認められるから、早くとも同日午前一〇時ころであるということができるところ、原告が本件建物の所有権を取得したのも、代金を納付した日である右同日である(民事執行法七九条)と認められる。しかしながら、原告が右代金を納付したのが右同日午前一〇時すぎであって、右弁論の終結時より後であることを認めるに足りる証拠はない。

なお、被告らは、建物の区分所有等に関する法律一〇条に基づいてする区分所有権売渡請求の相手方は、その登記名義人であるとして、これを前提に、前訴の口頭弁論終結後に原告が本件登記を経由したことをもって、前訴の口頭弁論終結後の承継人であると主張するが、右区分所有権売渡請求は、区分所有者に対し、その専有部分の収去に代えて、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求するものであるから、その相手方となるのは、真実の区分所有者であって、所有権を有しない単なる登記名義人ではないと解するのが相当である。また、右区分所有権売渡請求権が実質的には、敷地所有権に基づく物上請求権の性質を有するものであるとしても、敷地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去土地明渡を求める場合は、現実に建物を所有することによって、その土地を占拠して、その所有権を侵害している者を相手方とすべきものと解される。したがって、被告らの右主張は、その前提を欠き、失当である。

しかも、前記認定事実並びに弁論の全趣旨によれば、被告らが本件建物の所有権を取得したのは、昭和六〇年五月二日であるところ、本件建物については、それ以前に競売開始決定による差押えがされていたのであるから、被告らの右所有権取得をもって、原告に対しこれを主張できないものであることも明らかである。

以上によれば、原告は、前訴の口頭弁論終結後の承継人であるということはできない。

よって、抗弁は理由がない。

三、以上の次第であって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条、強制執行停止決定の認可並びにその仮執行の宣言につき、民事執行法三七条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤邦春)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例